2020/3/9
ベートーヴェン生誕250周年記念 首都圏8館共同制作 コンスタンチン・リフシッツ ベートーヴェンへの旅 Vol.2 in 横浜 ・桜木町「悲愴」 曲目解説(4/26)
コンスタンチン・リフシッツ(ピアノ) ベートーヴェンへの旅 ピアノ・ソナタ全32曲演奏会 4月26日(日)に開催のVol.2 in 横浜 ・桜木町「悲愴」の鈴木淳史さん(音楽批評)による曲目解説をご覧いただけます。コンサートの予習に是非ご覧下さい。
[past_image 1] コンスタンチン・リフシッツは、音楽の構成感を明確に示しつつ、そこに濃厚な表現を盛り込んでくる演奏家だ。バランス感覚がじつにいい。
その彼がベートーヴェンを弾いたライヴ録音を聴いてみた。バッハやスクリャービンを弾いているときと様子がちょっと違って、なかなかにスリリングだ。
ベートーヴェンの音楽は、たとえ表現が強くても、なかなか崩れぬ堅牢な構造をもつ。とういより、表現の強さに連動し、その構築性も高まってくるような音楽といっていいのかもしれない。
リフシッツは、表現力のアクセルを強く踏み込み、コーナーのギリギリを攻める。表現と構成の拮抗を最大限にしようとするかのように。
そうした表現力がもっとも発揮されるソナタが、第8番「悲愴」だ。今回の演奏会はこの曲をメインにすえ、それと同じ因子をもつソナタが組み合わされる。
今回演奏される4曲について、リフシッツはいずれも「根底に深い悲しみが宿っている」とインタビューで語っている。確かに、第2番第2楽章での情熱的なまでの嘆き、第7番第2楽章では、悲しみがより内面的に描かれる。そして、第12番の葬送行進曲では、色彩の変化によって哀感を醸し出す。
本日の聴き手は、「悲愴の誕生」という旅に立ち会うことになる。それは、同時にロマン派への扉をぐっと押し開かれるのを見届けるような、鮮烈な体験にもなるはずだ。
●ピアノ・ソナタ 第2番 イ長調 Op.2-2
若々しく、野心的なまでに様々な要素を盛り込んだOp.2の3曲だが、第2番はなかでももっともバランスよい構成感がある。また、これまではメヌエットが置かれるべき楽章に、ベートーヴェンは初めてスケルツォを導入した。力強さやコントラストを求める彼にとって、必然の第一歩だったのだろう。1795年頃に完成。
第1楽章(アレグロ・ヴィヴァーチェ イ長調 2/2拍子 ソナタ形式)
上下動する第1主題、第2主題はホ短調で現れ、転調を繰り返してホ長調に至る。
第2楽章(ラルゴ・アパッショナート ニ長調 3/4拍子 ロンド形式)
A-B-A-C-Aの構成で、ロンド主題(A)がCで「情熱的」に展開される。
第3楽章(スケルツォ アレグレット イ長調 3/4拍子)
細かな動機を組み合わせた躍動的なスケルツォ主題とイ短調のトリオによる。
第4楽章(ロンド グラツィオーソ イ長調 4/4拍子 ロンド形式)
A-B-A-B-A-C-A-B-コーダ。軽やかに上昇するロンド主題(A)、快活なホ長調のB、イ短調のCは半音階的なスタカートの三連符で嵐の到来を思わせる。
●ピアノ・ソナタ 第7番 ニ長調 Op.10-3
第6番までのベートーヴェンのピアノ・ソナタは、一作ごとに拡張を続け、巨大化していった(スケルツォ楽章までソナタ形式を帯びるほどだった)。3曲からなるOp.10で、ベートーヴェンはその方向性を変える。より凝縮された、強い表現力を求める音楽を目指したのだ。このソナタでも、第2楽章の内面に深く入り込むような表現に驚かされる。それは、ソナタの初期様式から中期への始まりと共に、古典派からロマン派への大きな一歩でもあった。作曲は1797年頃。
第1楽章(プレスト ニ長調 2/2拍子 ソナタ形式)
何の変哲もないシンプルな動機による主題が、ロ短調の経過句、イ長調の第2主題を経て展開、スケール感を増していく。初期のソナタならではの多彩さ、変化の多さがもっとも顕著に見られる楽章。
第2楽章(ラルゴ・エ・メスト ニ短調 6/8拍子 三部形式)
重い足取りで絶望を思わせる第1主題、第2主題は歌謡的なイ短調。下降する半音階と不協和音の連続で、深い「悲しみ」が表出される。
第3楽章(メヌエット アレグロ ニ長調 3/4拍子)
前楽章の雰囲気を慰めるような優しいメヌエット主題で開始。ト長調のトリオで運動性を増す。
第4楽章(ロンド アレグロ ニ長調 4/4拍子)
A-B-A-C-A-B-Aの構成。さりげなく、そしてどこかミステリアスな主題(A)。間を置かずBが速いテンポでニ長調で現れる。Cは変ロ長調の活発な音楽。
●ピアノ・ソナタ 第12番 変イ長調 Op.26 「葬送」
1800年頃に作曲。初期から中期への移行期にあたるソナタで、第3楽章の葬送行進曲がタイトルの由来。ソナタ形式の楽章をもたず、変奏曲で始まり、行進曲をメインに置くなど、モーツァルトの「トルコ行進曲つき」のソナタを意識したに違いない。また、ショパンが例外的に気に入っていたベートーヴェン作品でもあり、それは彼のソナタ第2番「葬送」にスタイルおよび構成面で強く影響を与えたことも明らかだ。
第1楽章(変奏付きアンダンテ 変イ長調 3/8拍子 主題と5つの変奏)
穏やかで、どこか達観した主題による変奏曲。
第2楽章(スケルツォ アレグロ・モルト 変イ長調 3/4拍子)
シンプルな主題と変ニ長調のトリオによる。
第3楽章(葬送行進曲 「ある英雄の死を悼み」 変イ短調 4/4拍子 三部形式)
重々しい足取りで開始される葬送行進曲。調の変化による色彩の推移が見事。中間部では、太鼓とトランペットを摸した活発な音楽に転じる。この「英雄」が誰であるかは不明で、架空の人物である可能性も高い。
第4楽章(アレグロ 変イ長調 2/4拍子 ロンド形式)
A-B-A-C-A-Bの構成で、葬送の露払いをするかのように、無窮動的に動き回るロンド・フィナーレ。
●ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」
ベートーヴェンのソナタでもっとも人気の高い曲。その理由は、ベートーヴェンが得意としたハ短調作品ならではの表現力がより強力に、そして洗練されたスタイルで書かれているからだろう。このソナタ全体の方向性を圧縮したような冒頭楽章の序奏。そして、それぞれの楽章は確固とした個性を持つものの、その動機的な結びつきも緊密だ。1798年に作曲。
第1楽章(グラーヴェ ハ短調 4/4拍子—アレグロ・ディ・モルト・コン・ブリオ ハ短調 2/2拍子 序奏付きソナタ形式)
フランス風序曲に発想を得た、序奏にあたる「グラーヴェ」の深々と重厚な響き。続いて、何かに取り憑かれたように走り出すアレグロ。変ホ長調で登場する第2主題は変ニ長調で確保。序奏は、展開部とコーダ直前にも姿を表わし、この曲の気分を支配する。
第2楽章(アダージョ・カンタービレ 変イ長調 2/4拍子 三部形式)
物憂げではあるものの、どこか遠い目で見るような、澄み切った主題。中間部は、ヘ短調で高音部と低音部が対話をするように進む。
第3楽章(ロンド アレグロ ハ短調 2/2拍子 ロンド形式)
A-B-A-C-A-B-A-コーダ。ロンド主題(A)は、第1楽章の第2主題から派生したもの。ヘ短調から変ホ長調へと流れを落ち着かせるB、第2楽章の主題と同じ調で、その雰囲気を再現するC。コーダは、第1楽章序奏の気分が顔を覗かせる。
文:鈴木淳史(音楽評論)
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ベートーヴェン生誕250周年記念 首都圏8館共同制作
コンスタンチン・リフシッツ(ピアノ) ベートーヴェンへの旅 ピアノ・ソナタ全32曲演奏会
【Vol.2】in 横浜 ・桜木町「悲愴」
2020年4月26日(日)15:00開演 神奈川県立音楽堂
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[past_image 2] 【Vol.1】in 横須賀 「ワルトシュタイン」
2020年4月25日(土)15:00開演 よこすか芸術劇場 (問)横須賀芸術劇場電話予約センター 046-823-9999
【Vol.2】in 横浜 ・桜木町「悲愴」
2020年4月26日(日)15:00開演 神奈川県立音楽堂 (問)チケットかながわ 0570-015-415
【Vol.3】in 横浜・青葉台 「熱情」
2020年4月29日(水・祝)14:00開演 フィリアホール (問)フィリアホールチケットセンター 045-982-9999
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2020年5月2日(土)15:00開演 狛江エコルマホール (問)エコルマホール 03-3430-4106
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2020年5月3日(日・祝)18:30開演 武蔵野市民文化会館 小ホール (問)武蔵野文化事業団 0422-54-2011
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2020年5月4日(月・祝)14:00開演 東京文化会館 小ホール (問)ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212
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2020年5月6日(水・休)15:00開演 所沢ミューズ アークホール (問)ミューズチケットカウンター 04-2998-7777
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2020年5月8日(金)19:00開演 ウェスタ川越 大ホール (問)ウェスタ川越 049-249-3777[past_image 3]
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