2016/5/9
神童から真の芸術家へ!ジョージ・リー(ピアノ)インタビュー
神童から真の芸術家へ!
チャイコフスキー・コンクール2015 シルバー・メダリスト
ジョージ・リー(ピアノ)インタビュー
聞き手:小林伸太郎(在ニューヨーク)
[past_image 1] 去る2月24日、ワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー歌劇場管弦楽団は、プロコフィエフのピアノ協奏曲全5曲を、5人のピアニストとともにすべて演奏するという演奏会をブルックリンで行った。休憩を挟んでおよそ3時間という、少々クレージーな企画だったが、そのクレージーさに惹かれる音楽ファンは多いと見えて、あいにくの雨模様にも関わらず、開演前のブルックリン・アカデミー・オブ?ミュージックのロビーは、詰め掛けた観客で大混雑であった。
プロコフィエフのピアノ協奏曲というと第3番が圧倒的に有名で、2番も比較的よく知られている。しかしこの日とりわけ観客の興味を引いたのは、演奏の機会の少ない残りの曲だった。番号順に演奏されたこの日、第1番をブリリアントに弾いて一気に演奏会を盛り上げたのが、まだ20歳という若きピアニスト、ジョージ?リーだった。
「若い奔放さと完璧なコマンド」ニューヨークタイムズ紙
この時の彼の演奏をニューヨーク?タイムズ紙は、「若い奔放さと完璧なコマンド」に統合された演奏と絶賛した。強固なテクニックに支えられた、リーの恐れを知らないガッツある演奏は、プロコフィエフがまだ21歳だった時に初演されたこの曲と最高に相性がよかった。同時にタイムズ紙は、中間楽章の演奏に「卓越した深さと暖かみ」があったと評価、リーの演奏がテクニックの羅列にとどまらないことを示唆した。
演奏直後の楽屋で、リーは語ってくれた。
「第1番協奏曲は最初期の作品ながら、偉大なる第2番へとつながるテクニックやアイディアが既に感じられるという意味で、とても興味深い曲です。この曲を演奏したのは今回が初めてだったので、全く不安がなかったわけではありませんが、マエストロ?ゲルギエフはいつも新しいアイディアにあふれていて、今日も素晴らしかったです。今回はマエストロがニューヨークの税関で足止めされたこともあって、リハーサルが極端に少なかったのですが、その分本番ではお互いがお互いを聴き合い、自然発生的でスリリングな演奏になったと思います。マエストロとの共演は、いつも特別です。」
初の国際的メジャーコンクールで第2位入賞
リーが大きく注目されたのは、やはり昨年の第15回チャイコフスキー・コンクールでの2位入賞だろう。
「これまで幾つものコンクールに参加していますが、チャイコフスキーは初の国際的メジャー・コンクールでした。コンクールは、優勝しようという思いだけが先に立つと、外的なプレッシャーに簡単に圧倒されかねません。私はコンクールを、音楽を祝祭する場、できるだけ多くの人々と音楽を共有する場と考えています。そしてコンクールは、参加者を始め様々な人々から学ぶ機会でもあると思います。チャイコフスキーでは審査員が最前列に並んでいたので、審査のことを考えないようにするのは少々大変でしたが、ロシアの聴衆は音楽を実に注意深く聴いてくれる素晴らしい聴衆だったので、ずいぶんと助けられました。コンクールは、演奏の機会を得るためのプラットフォームになると同時に、テクニックを磨くという点でも、ストレッチして自分の限界を超える助けになります。」
4歳半からピアノを始めたという、リー。彼はボストンで生まれたが、彼の両親は文化大革命の最中の中国で育ったため、音楽家ではない。しかし特に彼の母親は、クラシックのラジオ曲をことあるごとにかけたり、クラシック音楽コンサートにリー少年を連れて行ったりして、早くから音楽的な環境を作り出してくれたという。
「私は(両親にはない)素晴らしい機会を与えられ、非常にラッキーであったと思います。音楽家になりたいと思うことが、ある意味でごく自然に思える環境を、両親は作ってくれました。ピアノに出会ったのは、母が子供だった私を一人置いておけず、姉のピアノのレッスンに連れて行ってくれたのが、契機となりました。」
結局彼の姉は音楽家にならず、高校の数学教師となった。一方ジョージ少年は、間もなくプロの演奏家を志すようになり、大学進学の際は、カーティス音楽院に進むか、ハーバード大学とニューイングランド音楽院のジョイントプログラムに進むかで、大いに迷ったという。
「カーティスは、(音楽を学ぶ場所であると同時に)音楽家としてのキャリアを築く上で、大きな助けとなる学校です。でも自分には、音楽だけに偏らない包括的な教育が必要だと思い、ハーバードとニューイングランド音楽院とのジョイントプログラムを選びました。毎日練習室に自分を閉じ込めるのではなく、人生をもっと経験し、学びたいと思ったのです。」
現在2年生として在籍するハーバードでは、英語・英文学に焦点を置いて勉強しているが、音楽に非常に役立っているという。
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「物事を違った角度で捉えることに役立ちます。ハーバードには、様々な分野で才能にあふれた学生が数多くいることも刺激となっています。現在、ドストエフスキーの『罪と罰』をクラスで読んでいます。これまでにも、ジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』を読んだり、英国ロマン派の詩のクラスでワーズワースーやコールリッジ、キーツといったロマン派詩人の作品も学びました。優れた文学作品は、人間の条件、感情を掘り下げ、どのようなイメージが彼ら(作家)の心を捉え、それに彼らがどう反応したかを表しており、しかもそれを素晴らしく明確に成し遂げています。そこから学んだことを、音楽に生かすよう、努めています。」
人生を経験することは音楽にも大きな助けとなります。
そんな彼が今一番触発されるのは、日々の生活で経験する、ごく当たり前のことだという。
「例えば、人生において苦しみを経験して、それを乗り越えることは、音楽でも似ています。音楽でも苦闘の過程がいつもあって、そこで細かい細部を掘り下げ、全てを咀嚼して、やっとそれぞれの作品にある言語に辿り着きます。人生を経験するということは、音楽にも大きな助けとなります。そして外を歩いているランダムな瞬間に、美しい雲を見たり、空の色に感動したりといった、なんでもない経験も大切です。それをエネルギーにして、1日を過ごすかもしれませんし、誰か新しい人に出会うかもしれません。そういったなんでもない経験を、大切にしたいと思います。」
チャイコフスキー・コンクール以降は、演奏ツアーの機会も増えている。大学と演奏旅行を両立させるのは、楽ではないことは容易に想像できる。
「この冬は、モスクワからペテルスブルク、北京へと短い期間に移動して、その間に突然、代役として曲を用意しなくてはならなくなり、大変でした。北京からマイアミへと飛んだ時は疲れ果て、空港では体が動かなくなって、床に寝てしまいました。それでも、色々な土地を訪れ、色々な人々に出会うことは、素晴らしい経験です。音楽を通じて、色々な人々は、結局皆同じと感じます。」
初めての日本を楽しみにしています。
日本に行くのは、今回の演奏旅行が初めてとのことで、日本の食べ物とともに、日本で演奏できることをとても楽しみにしているそうだ。
「リサイタルのプログラムは、できるだけバラエティを持たせて、お客様がそれぞれにジャーニーを辿っていただけるようなものにしたいと思いながら、考えています。それから曲同士のコントラストも大切にしています。」
近い将来には、ラフマニノフの協奏曲の勉強に時間をかけたいというが、ピアノのレパートリーは、スタンダードな作品だけでも膨大である。様々な作品を深く学ぶために、とにかく時間が欲しいという。
「作品の一つ一つと、強い感情的な繋がりを築きたいと思います。作品世界を知るため、場合によっては作曲家の生涯や時代背景を調べることもあります。でもそれは、音楽理論と一緒で、いつも演奏の助けになるとは限りません。しかし結果として役に立たない場合でも、その探求するプロセスが大切なんだと思います。
室内楽も、色々な音楽家と関係を築く刺激的な機会となるところが楽しく、9歳で初めて演奏して以来、少なくとも年に1回は演奏しています。
テクニックは手段。自分のスタイルを持つ真のアーティストになりたいです。
まだまだ自分は発展途上にあるとの自覚がある、リー。最後に自らの将来像を語ってもらった。
「私はコルトーや、ホロヴィッツなど、いわゆる黄金時代のパーソナリティーの備わった演奏家の音楽が好きです。作曲家の示唆する世界、スタイルを尊重することは非常に大切ですが、真のアーティストになるためには、自分独自の解釈を見つけなくてはならないと思っています。テクニックは、そのための手段でしかありません。単なるヴィルトゥオーソではなく、音楽を深く感じることができる音楽家として知られるようになりたいと思います。」
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新星登場!輝く「特別」な才能!!
第15回チャイコフスキー国際コンクール2015シルバー・メダリスト。待望の初来日!
ジョージ・リー ピアノ・リサイタル
2016年6月6日(月) 19:00浜離宮朝日ホール
⇒ 公演の詳細はこちらから
≪モニター席販売!≫
今後、活躍が注目されるジョージ・リーのリサイタルを「モニター席」でお聴き頂くことができます。
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