2016/1/12

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内面的表白のできる特別なテノール、ディミトリー・コルチャック (マリインスキー・オペラ)

 チャイコフスキーの《エフゲニー・オネーギン》は今まで何度見たか分からない。その中に今をときめくアンナ・ネトレプコが主役のタチアーナを歌ったのも勿論見落としてはいない。彼女は絶対に失望させないし、ロシア人として《エフゲニー・オネーギン》の主役を歌うのに全く相応しいからである。というわけで、彼女の出演する2015年11月5日の《オネーギン》の公演にもいそいそと出かけた。 [past_image 1] ウィーン国立歌劇場で絶賛されたコルチャックのレンスキー    ころがこの日は思いがけない収穫があった。それは妹オルガの婚約者レンスキーを歌ったディミトリー・コルチャックの驚くべき”レンスキーのアリア”であった。コルチャックはテノーレ・レジェーロとでもいうべきデリケートな声で、この悲劇の主人公の矛盾葛藤する心境を吐露したのだった。第二幕一場でオネーギンがわざとオルガとばかり踊り、レンスキーの嫉妬をかきたてる。ここまでは定石通りと思っていた。  ところが、それに続く親友オネーギンとの決闘を前に歌われる”レンスキーのアリア”で、初めて本物の”レンスキー” に出会っていることに気付いたのだ。これまでもこのアリアの立派な歌唱は聴いている。このアリアには「失われた青春の黄金の日々」と「愛するオルガを失う悲しみ」という台詞しか出てこない。それにもかかわらず、軽はずみな嫉妬から逆上した後悔、タチアーナの誕生パーティを台無しにしたオネーギンとの争い、親友との決定的仲違い等々の思いが、一度に押せてくるのを止められない悲劇的表現が込められていたのだ。これは滅多にない事だ。  この公演でコルチャックは絶賛を博した。それは昨シーズン、ウィーン国立歌劇場で特筆されるべきものであった。年末、年始恒例の《こうもり》第2幕オルロフスキーのパーティのゲストに、例年驚きのゲストが呼ばれる。今回それがコルチャックだったのだ。 [past_image 2] ウィーン国立歌劇場、大晦日恒例『こうもり』第2幕のスペシャル・ゲストで登場したコルチャック。 今をときめくスターたちが登場してきた同ゲストでの出演はまさにスターの証だ!  これは彼の”レンスキーのアリア”の素晴らしさの証明である。コルチャックは内面的表白のできる滅多にいないテノールである。 野村三郎(音楽評論家/在ウィーン) - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 帝王ゲルギエフ&伝説の劇場が威信をかける2演目 マリインスキー・オペラ 来日公演2016 「ドン・カルロ」 10月10日(月・祝) 14:00/10月12日(水) 18:00 「エフゲニー・オネーギン」 10月15日(土) 12:00/10月16日(日) 14:00 公演の詳細はこちらから
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