2015/10/11

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ブルガリア国立歌劇場 「トゥーランドット」初日レポート&インタビュー

東京文化会館での『トゥーランドット』で幕を開けたブルガリア国立歌劇場の来日ツアー。 ホール5階席まで満員となり、客席からの期待に応えるように、舞台からも素晴らしい熱気が溢れ出していた。ドラマティック・ソプラノの中でも最も過酷な役であるトゥーランドットを、見事に歌いきった美しい歌姫ヨルダンカ・デリロヴァ、勇敢な王子カラフを会場全体を響かせるテノールで魅了したマルティン・イリエフ、涙なくしては聴くことのできない可憐なリューを歌ったラドスティーナ・ニコラエヴァに、大きなブラボーとカーテンコールが寄せられ、拍手がいつまでも鳴りやまない。オペラの主題である「愛」に満たされた、奇蹟の公演だった。 [past_image 3] トゥーランドット役:ヨルダンカ・デリロヴァ [past_image 4] カラフ役:マルティン・イリエフ 歌手の健闘を支えていたのは、このブルガリア歌劇場の素晴らしいオーケストラ。各パートの素晴らしい首席奏者の演奏、アンサンブルの巧みさ、全体の呼吸感など、驚くべき完成度だ。プッチーニの譜面からこれだけの宝石を救い出した指揮者のグレゴール・パリカロフの力量に圧倒される。終演後、マエストロにコメントをいただいた。 オーケストラが指揮者を囲むように座るのではなく、ほぼ全員が舞台正面を向く配置になっていましたね。 「そうです。シンフォニックな効果を出すためで、私の通常のオーケストラ公演と同じスタイルでメンバーを配置しました」 オーケストラ・ピットの床をずいぶん深くして、底から湧き上がるような音を出されていました。 「その通りです。ホールに合った音響にする必要がありますから、ゲネプロでは歌手の声とのバランスもとりながら、どのような響きにするのかを調整していきました」 大変優秀なフルート奏者がいますね。ヴァイオリン、コントラバス、その他のパートでも初めて聴くプッチーニの音が聴こえました。 「ありがとうございます。皆に伝えておきます」   『トゥーランドット』では、カラフの父親でタタールの王、ティムール役を演じるバス歌手のスヴェトザール・ランゲロフ。表現力に富んだ低い声で、息子カラフの命を案じ、女奴隷リューの死には悲痛なドラマを演じる役だ。「ロード・オフ・ザ・リング」さながらの衣裳をつけたままでインタビューに答えてくれた。 スヴェトザール・ランゲロフ[ティムール役 バス] [past_image 1] 近くで見るとすごい迫力です。衣裳もヘアメイクも…髭はどのようにつけているのですか? 「舞台用の糊があって、取ったあとにも皮膚がかぶれないような材質のものでつけてあります。舞台メイクの化粧品会社で作っている特殊な糊なんです」 ティムールの役は、王様でありながら威張ったところがなく、つねに若者を見守る父性を湛えていますね。 「今は彷徨っていますが、かつては一国の王であったわけですから、その雰囲気を出さなくてはなりません。そして、長く一緒に旅をしてきたリューをとても可愛く思っている。娘のような存在に感じているんです」 では、リューの死のあとのティムールの演技は、どのようなお気持ちで歌われているのですか? 「…(少し沈黙して)あそこでプッチーニはこのオペラを書き終えているのです。続きは弟子のアルファーノが書きましたが、それまでの悲劇的な雰囲気が、一気に明るい方向に流れてしまうので、私の意見では、このシーンで終わってもよかったのではないかと思うのです。プッチーニは悲劇を書きたかったのではないか、と歌っていると感じるのです」 プッチーニの友人であった指揮者トスカニーニが「ここでマエストロは書き終えました」と言ってオペラを中断させたことは有名です。ところで、プッチーニのオーケストラはダイナミックで、歌手にとっては苛酷であるということがよく言われます。 「どんな作品でも、オーケストラと歌の調和がありますし、ホールによって音響は異なりますから、その都度リハーサルで調整していくのです。ですから、オーケストラに信頼を置き、いつでもベストな歌が歌えるように準備するのです。プッチーニに限らず、すべての作曲家もです」 なるほど。プッチーニ作品を歌われることは多いですか? 「『ラ・ボエーム』のコッリーネぐらいですね。ヴェルディが圧倒的に多く、『ナブッコ』『ドン・カルロ』『アッティラ』などでは主役を歌います。これまでに31のオペラ作品で主役を歌ってきました。『ボリス・コドゥノフ』などのロシア作品でもバスは活躍しますが、プッチーニはバスの出番が少ないのです。その中でもティムールは、プッチーニがバスに活躍の場を与えた数少ない役だと思います」 [past_image 5] リハーサル後、ランゲロフに演技指導をするカルターロフ 文:小田島久恵(音楽ライター) ステージ写真:中村ユタカ ------------------------------------------- ブルガリア国立歌劇場 2015年日本公演 ◆今後の全国日程◆ 10月12日(月・祝)京都コンサートホール「トゥーランドット(セミ・ステージ版)」【詳細URL】 10月14日(水)福岡シンフォニーホール「トゥーランドット」【詳細URL】 10月15日(木)兵庫県立芸術文化センター 「イーゴリ公」【詳細URL】 10月16日(金)ハーモニーホールふくい「トゥーランドット(セミ・ステージ版)」【詳細URL】 10月17日(土)愛知県芸術劇場大ホール「イーゴリ公」【詳細URL】 10月18日(日)広島県・三原市芸術文化センターポポロ「トゥーランドット」【詳細URL】 10月21日(水)岡山シンフォニーホール 大ホール「トゥーランドット(セミ・ステージ版)」【詳細URL
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