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Q:ショパン・コンクールから5年、チャイコフスキーから4年が過ぎました。その間のあなたの演奏家としての人生は、どのように変わりましたか?
T(トリフォノフ):4年間が、あっという間に過ぎ去った感じです。ショパン・コンクールやチャイコフスキー・コンクールが、まるで昨日の出来事のように感じます。この4、5年は、演奏活動にひたすら励んだ、とても充実した日々でした。なかなかまとまった休みも取れず、今シーズンやっと数日間のオフをとり、今アメリカでゆっくりとした時間を過ごすことができています。振り変えると今シーズンは120回の演奏会を行いました。
Q:では夏の休暇もずっと取れずに、走り続けてきたのでしょうか?
T:もちろん毎年夏には、数日間のオフをとるようにはしてきました。作曲をしたり、レパートリーを広げたりする時間が必要ですからね。作曲した作品を出版する作業などもありますし…。
Q:それは完全な休暇とは言えませんよね。結局仕事をしていることになります(笑)
T:まあそうなりますね。次のシーズンへ向けての準備期間、という位置づけでしたから。でも今年は、大きな休みを取ることができ、とてもハッピーです!とにかく忙しい数年でしたから。コンクール直後の数年は年間100回コンサートを行い、今シーズンが120回・・・。
Q:単純に計算したら、3日に一回!
T:何よりも大変なのは、移動に時間をとられること。空港へ行ったり、飛行機を待ったり、空の上で過ごす時間とか…。そして移動先では時差もありますし…。
Q:日本はヨーロッパからもアメリカからも遠いから、大変なのでは?
T:それがね、日本はとても楽なのです!“慣れ”に必要な時間がかからない!私にとっては、旅が楽な例外的な国です。多忙を極めたこの数年の経験で分かったことは、コンサートに向けての充電期間がとても大切だということです。充電のための時間を、もう少しとったほうが良いのだ、と感じるようになりました。休暇は充電器のようなもの。今も僕は充電中です。ここの天気は素晴らしいし、しっかり充電していますよ(笑)!間もなく充電完了です!
Q:数々の偉大なマエストロと共演されてきました。ビエロフラーヴェクさんとは共演なさっていますか?
T:実は、まだ共演したことがないのです。でも今回の日本ツアーで何回も共演させていただけることになり、とても楽しみにしております。共演はまだですが、マエストロには先日お会いしました。僕のプラハでのリサイタルにマエストロが来てくださったのです。その時に、プログラムの話などをしました。素晴らしいオーケストラと、素晴らしいマエストロとのステージ、とてもわくわくしています!
Q:その時に演奏するのはラフマニノフの2番ですよね?
T:そうなのです。楽しみですね〜。僕が弾きたい、僕に弾いてほしい、みんなの意見が一致して、この作品に決まりました。
Q:そのラフマニノフの2番ですが、とてもロマンティックで、作曲家本人の思い、その時の状況なども反映されている作品です。あなたにとって、この曲の魅力は何でしょうか?
T:何よりも、作品に込められた深い気持ち、感情が魅力的です。でも、その感情は、厳格なコンセプション(概念)の枠内に収まっていなければなりません。感情が先走ってはいけない、ということです。たとえば2楽章。とても深い、内面の心情をつづった音楽です。でもそこに、余計なセンチメンタリズムがあってはならない。厳格なパルスや、共通の動き、リズムなどが大切で、感情や気持ちがそこからあふれ出たり、流れ出たりしてはなりません。先走りしがちな感情に“手綱”を引く、と言いますか…。厳格なパルス、厳格な時間の感覚があって…(ここで2楽章の一部を歌ってくれました!)ラフマニノフ自身の演奏を聞いてもらえるとわかります。きっちりとした時間の流れが、伝わってきます。
Q:今回日本ではリサイタルもあります。プログラムの意図をお話いただけますか?特に、ラフマニノフの1番ソナタをメインに置いた理由は?
T:プログラムを決めるときは、いつもババヤン先生と相談します。先生のもとを正式に卒業した今でも、プログラムについては先生からアドバイスをもらいます。今回日本で弾くプログラムは、次のシーズン前半、各地で演奏するプログラムです。
前半にバッハ、シューベルトのソナタト長調と、ブラームスの変奏曲。そして後半にラフマニノフのソナタ第1番。確かにこのソナタは、2番に比べるとあまり演奏される機会がない作品です。もっと演奏さるべき作品で、人気の2番に決して引けをとらない、深くてドラマ性のある曲。あまり演奏されないのは、この作品がとても深くて難しいからでしょう。
プログラミングの時に意識するのは、もちろん調性や時代背景などありますが、毎シーズンに必ず新しいプログラムを、自分にとって新しい形でつくるようにしています。来シーズンは、ブラームスとシューベルトとラフマニノフです。
日本で演奏するプログラム、現在準備中です。日本の前に、数回演奏し練りこんでいきたいと思います。万全の状態でのぞむつもりです!
Q:トリフォノフさんは音楽の“即興性”を大切にされていますが、詳しく教えてくださいますか?楽譜の記述を基礎にした上で、どのようにして個性や自分らしい表現をつけていくのでしょうか?
T:僕が考える即興性とは、音楽を創る上で感じる今現在のフィーリングです。つまり、決して“再生”品であってはならず、新たに創られるものでなければなりません。こんな比較はどうでしょう?昆虫博物館に展示されている、蝶々の標本。どれも美しいのですが、それは命のない標本に過ぎない。自然の中で飛び回る、生きている蝶々は、形は同じでも全く違いますよね。即興とは、そういうことです。その場その場で臨機応変に動きが変わります。
Q:即興のためには会場やその場の雰囲気も大切ですね…。
T:ごもっともです。でも、肝心なのは、奏者の内面的な“軸”です。奏者自身が演奏しながら、何をどう聴きたくなるか、何を引き出したくなるのか、アイデアが次々とあふれてきます。それは同じ作品を弾いても演奏会によって毎回違ってきます。
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Q:本番前に行う習慣などありますか?縁起をかつぐこととか?心の充実とともに、体のメンテナンスも大切ですね。普段からどのようなことを心がけていますか?
T:本番前の習慣についてはよくたずねられます。習慣、というのは本番前に毎回繰り返す行動ですよね。特にないです。というのは、コンサートは、同じものは二度とない。繰り返されることはありません。毎回新しく、独創的であるべきです。演奏会の前も、最中も、後も、感覚はいつもまったく異なるのです。
Q:たとえばスポーツ選手が、試合の前に必ずあるものを食べたりとか、辛い食べ物は避けたりとか、いろいろありますよね…
T:そうそう、食べ物と言えば、プログラムによって、食べたくなるものが変わります!辛い食べ物が合うプログラムとか…(笑)
話は戻りますが、演奏会前の習慣をあえて言うなら、集中力を高めることでしょうか。コンサートの数時間前から、他のことに気を向けないように自分を仕向けます。それが唯一の習慣、というか心がけていることかな…。ツアーの時には食事にも気をつけますよ。
Q:オペラ歌手の中には、本番前には大好きなお寿司を我慢する人もいます。生の魚を食べないように。
T:ええ〜!日本にいて寿司を食べられなかったら、とても悲しいなあ…。僕には絶対にできない自制です。逆に生も含めて、魚を食べると集中力が高まる気がする。寿司とか、刺身とか。
Q:それなら日本ではものすごく集中しやすいいのでは?
T:そうですね。僕にとっては、魚が集中力のエネルギーです!
ツアーに出た時に、食事の他に気をつけていることがもう一つあります。それは運動。移動が続いたりホテルにずっといたりすると運動不足になりがち。そうすると、筋肉が固くなってしまいます。筋肉が膠着すると、音に影響する。より柔軟な音が出るためには、筋肉も柔らかく保っておかないと。体操とか、ヨガなどを時間があるとしています。
Q:ロシアは伝統的に素晴らしい音楽家を大勢輩出してきました。その理由はどこにあると思いますか?
T:ピアノのロシアンスクールを考えてみると、何よりも19世紀に培われた素晴らしい伝統がありますね。リスト本人や、彼の弟子たち、素晴らしい先生たちがロシアを訪れています。彼らの残してくれた伝統や遺産が今に引き継がれています。
また他にも、作曲家の貢献もありますね。ラフマニノフ、プロコフィエフ、スクリャービンなど、素晴らしいピアニストでもあった彼らは多くのピアノ作品を残してくれています。それがピアノ芸術や演奏芸術を大きく発展させました。もっとも、今はロシアンスクールも多様化してきています。一言の定義では測れなくなってきました。
Q:ご自分で作曲されたり、指揮をしたりということにも興味があるそうですが、今後どのような音楽家を目指していきたいですか?
T:指揮は、まだ経験がありません!それに今のところ、まだ予定もないです。
今はとにかく、レパートリーを広げていくことです。シーズンごとに、新プログラムをしっかり準備する。間もなく新しいCDが出るんです。ラフマニノフの変奏曲集で、コレッリの変奏曲とか、パガニーニ変奏曲とか。僕が作曲した作品も入っています!録音にも積極的に取り組んでいきたいです。
Q:ご自身の音楽観を高めるために、音楽以外で勉強したいこと、していることはありますか?
T:ピアノ、音楽以外の芸術に多く触れるようにしています。その分野もそうですが、たとえば文学と音楽、絵画と音楽など、密接に結びついています。ラフマニノフも、絵や文学に触発されて書いた作品、「死の島」とか「鐘」などがありますね。教会音楽、宗教的な分野も、もちろんラフマニノフに大きな影響を及ぼしています。協奏曲2番には、宗教的なイメージもありますね。
とにかく様々な形の芸術に触れ、知ることが大切だと考えています。
Q:ピアノが1か月弾けなかったら、何をしましょう?
T:作曲!ピアノがそばにあれば、ですけれど(笑)。僕の作曲したピアノ協奏曲の初演がありました。それはクリーブランドの学生オーケストラとの共演で来年はピッツバーグのオケと共演する予定です。3楽章からなる、33分の作品です。
Q:現代曲、と言う感じの作品?
T:そんなことはないと思います。作曲するときに、自分が弾きこんでいる作品の影響が出ているかも。僕のピアノ協奏曲は、リヒャルド・シュトラウスとプロコフィエフとラフマニノフを感じてもらえると思います。もうすぐ書き終わるのが、ヴァイオリンとピアノとオーケストラのためのダブルコンチェルト。ピアノ協奏曲も、いずれ日本で演奏できればいいなあ…。
Q:日本のファンにメッセージをお願いします。
T:また日本に行けることは、大きな幸せです!新しいプログラムをご披露します。ラフマニノフの協奏曲2番を日本で初めて弾けることも、とても楽しみです。日本の皆さんは、ラフマニノフの作品をとても好きですからね。
聴衆の皆さんもオーケストラもメンバーも、指揮者も、もちろん僕も、みんなが大満足するような演奏会になりますように!
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ゲルギエフ、ティーレマン等現代の巨匠の視線を釘づけにする、旬(とき)のピアニスト
ダニール・トリフォノフ ピアノ・リサイタル
2015年10月29日(木) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<プログラム>
バッハ/ブラームス:左手のためのシャコンヌ
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調
ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 第1巻
ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第1番 ニ短調
⇒ 公演の詳細はこちらから
ビエロフラーヴェク指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
2015年10月31日(土) 18時開演 サントリーホール
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<プログラム>
スメタナ:“モルダウ”〜連作交響詩「わが祖国」より
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 Op.18 (ピアノ:ダニール・トリフォノフ)
チャイコフスキー:交響曲第5番 Op.64
⇒ 公演の詳細はこちらから
<全国日程>
10/27(火) 富山県民会館ホール [問合]公益財団法人 富山県文化振興財団 076-432-3115 ☆
10/28(水) サントリーホール [問合]ジャパン・アーツぴあ 03-5774-3040 ☆
10/29(木) 福岡シンフォニーホール [問合]アクロス福岡チケットセンター 092-725-9112 ☆
10/31(土) サントリーホール [問合]ジャパン・アーツぴあ 03-5774-3040 ★
11/1(日) 愛知県芸術劇場コンサートホール [問合]中京テレビ事業 052-957-3333 ★
11/2(月) アクトシティ浜松 大ホール [問合]公益財団法人 浜松市文化振興財団 053-451-1114 ★
11/3(火・祝) 横浜みなとみらいホール [問合]チケットセンター 045-682-2000 ☆
11/4(水) NHKホール [問合]NHKプロモーション音楽祭係 03-3468-7736
☆ソリスト:庄司紗矢香(ヴァイオリン)
★ソリスト:ダニール・トリフォノフ(ピアノ)