2015/6/25

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ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィル ロンドンの公演レポート

[past_image 1]  ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団は、首席指揮者ミヒャエル・ザンデルリンクのもと、近年特に海外公演にも力を入れており、この一年だけでもヨーロッパ・ツアーをはじめ、南アメリカ(アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、ブラジル)、米国フロリダなどを訪れ、高い評価を得てきました。  6月半ばに地元ドレスデンでの充実したシーズンを終え、オーケストラにとって今季の締めのプロジェクトはイギリス・ツアーおよびアジア・ツアーです。  イギリス・ツアーでは、ロンドンの高級地区スローン・スクエアにあるカドガン・ホールで3日間にわたるベートーヴェン連続演奏会を行なったほか、ロンドン郊外のレディング、さらに英国一のコンサート・ホールを誇るバーミンガムで公演を行ないました。筆者はツアー最終日となったロンドン公演第3夜を聴きましたが、指揮者ザンデンリンクの奇をてらわないダイナミックなアプローチ、曲を構造的にとらえる能力、そしてオーケストラの響きのバランスに対する卓越した感覚が印象的でした。  この夜のプログラムは、ベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ピアノ独奏:フレディ・ケンプ)、交響曲第7番というきわめて王道のプログラムでしたが、どの曲も緻密な音楽作りで、ベートーヴェンの音楽の本質を追求しているように思いました。  たとえば、この日の演奏では弦楽器は完全なノン・ヴィブラートで、また管楽器も揺れの少ないピュアな音色でしたが、ザンデルリンクの場合、いわゆる古楽奏法への関心からというよりは、むしろロマンティックな表現を排し、ベートーヴェンの音楽のメッセージを強いインパクトをもって伝えたいからではないかと感じました。というのも、ザンデルリンクはたとえばブラームスではふつうにヴィブラートを使った演奏をするからです。  当夜のハイライトであったベートーヴェンの交響曲第7番も、最近流行りの快速で軽めで、細かいアーティキュレーションにこだわった演奏ではなく、モダン・オーケストラの力強いサウンドを生かしたエネルギッシュなもので、テンポも第3楽章を除いてゆったり目で、より大きなフレーズの単位で音楽をとらえていました。 [past_image 2]  ヴァイオリンは対向配置で、第1ヴァイオリンの隣にチェロ、そのうしろにコントラバス。特にチェロとコントラバスが厚みのある低音で、重心の低い響きの土台を作っていました。フルートやオーボエ、クラリネットなどもストレートな音で弦楽器とよくブレンドし、さらにはホルンがあたたかみのあるのびやかな音色で大活躍でした。  ザンデルリンクはスコアに忠実に、提示部の繰り返しもすべて行ない、その大きな身振りでオーケストラからダイナミックで雄大な表現を引き出していました。また第1楽章から第2楽章、さらに第3楽章から第4楽章へ休まずアタッカで演奏していましたが、おそらく音楽の緊迫感を持続したかったのでしょう。個人的には、第3楽章のスケルツォにおける躍動感のあるフレーズ作りが特に心に残りました。オーソドックスなアプローチながらも生命力あふれるベートーヴェンを東京でもお楽しみください。 後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト) ---------------------------------------------------- 古都ドレスデンが誇る名門楽団の、伝統が生む特別な響き ザンデルリンク 指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 2015年7月6日(月) 19時開演 サントリーホール オール・ベートーヴェン・プログラム 「フィデリオ」序曲 ピアノ協奏曲 第5番「皇帝」(ピアノ:清水和音) 交響曲 第7番 公演の詳細はこちらから
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