2015/6/17

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ブルガリア国立歌劇場 現地公演リポート

 バラ祭りの初夏、首都ソフィアにあるブルガリア国立歌劇場にて上演された「イーゴリ公」と「トゥーランドット」は大喝采にて幕を閉じました。 夜7時近くになっても、外は未だ明るいブルガリア。街の中心部にあるオペラハウスは、親しい人と連れ立ち、ドレスアップして訪れる人々で賑わいました。 [past_image 1] ボロディン【イーゴリ公 】 6月5日(金) 19時開演 <キャスト> イーゴリ公: ビゼール・ゲオルギエフ ヤロスラーヴナ:ラドスティーナ・ニコラエヴァ ガリツキー公: アレクサンドル・ノスィコフ コンチャク汗:ペタル・ブチュコフ  舞台はロシアの大地。小麦畑、曲がりくねる道、神秘的な日食、キリストが描かれた光輪の投写がシンボリックに盛り込まれています。   通常は4時間以上の長大なオペラですが、今回のカルターロフ版演出は、主人公イーゴリ公が戦いを挑むホロヴェツの王コンチャック汗が、捕虜となったイーゴリ公を大切な友人として迎え入れ、敵対してきた互いの子供達の結婚を大きな宴とし、皆で祝うという想定外の平和な結末までを3時間に濃縮しています。  キャストの一人、ノスィコフは、カルターロフ演出の<イーゴリ公>を、「簡潔なストーリーで、一切余計なものが入っていません」と話してくれました。「ロシアのイメージが正しく描かれています。ロシアは土地が広く、自宅から仕事場の小麦畑まで遠いので、人々はそこで食事をし寝起きをしました。第一幕の曲がりくねった道は、運命に翻弄されるイーゴリ公の人生を比喩しています。」幕の終わりに道が分断され、そこからイーゴリ公の苦しみが始まります。  イーゴリ公の妻ヤロスラーヴナを演じるのは、2000年の初来日からおなじみのニコラエヴァ。「ヤロスラーヴナは、心で戦うのです。」戦いに赴いた夫 の身を案じつつも、毅然として国の人々を守るヤロスラーヴナの儚さと強さを込めたニコラエヴァの歌声は、大きな聴きどころとして人の心を捉え、カーテンコールでも大喝采を浴びていました。  敵対する民族ゆえ愛し合ってはならないイーゴリ公の息子ウラディーミルとコンチャク汗の娘コンチャコヴナ。コンチャク汗はウラディーミルを招き入れ、娘との結婚を申し出ます。品格ある演技と歌声のコンチャク汗役のブチュ コフは、「この演出は、大切なところだけをピックアップした素晴らしいプロダクションです。」と終演後に自信に満ちた表情で話してくれました。  歓喜に湧く大展開のフィナーレ。愛と民族間の融和が、エネルギー溢れる音楽と美しい躍動で魅せるバレエに織り込まれ、一瞬も目を離せない、斬新且つ大胆な演出の「イーゴリ公」に仕上がっています。炸裂する大音量の音楽で繰り広げられる華やかな「ホロヴェツ人の踊り」に客席は大いに湧き、カーテンコールは大ブラボーに包まれました。スタンディングをオベーションで瞳を輝かす人の表情からも、「爽快な、気持ちの良いオペラですよ」と、大のオペラ・ファンにも初めて観る人にも、勧めてたくなる作品です。 [past_image 2] プッチーニ 【トゥーランドット 】 6月7日(日)16時開演 <キャスト> トゥーランドット: ガブリエラ・ ゲオルギエワ カラフ :コスタディン・ アンドレエフ ティムール: スヴェトザール・ランゲロフ リュー:シルヴァナ・プラフチェヴァ 今回のトゥーランドットは、2000年にディミトローヴァと共に初来日したときのプロダクションです。  ブルガリアの人々が誇る世界的ディーヴァが亡くなってから、今年で10年。 命日にあたる6月11日を前に、劇場ではディミトローヴァ・フェスティヴァルが開かれました。 [past_image 3] <ディミトローヴァ・フェスティヴァルの様子>  ホワイエには実際に着用されたトゥーランドットの衣装や、世界の歌劇場にてトゥーランドットを演じた数々の写真が飾られ、懐かしむ人々の目を留めています。午前中には、劇場ステージでカルターロフ総裁とディミトローヴァに最後に師事したダシュナムをはじめ、批評家ら5人による対談が行われました。スカラ座でドミンゴと歌う場面や、日本公演でのNHKのインタビューの様子が映しだされ、世界中のオペラ・ファンに愛されたディミトローヴァの功績が讃えられました。  日本で披露するトゥーランドットは、ブルアガリア国立歌劇場のベテラン歌手陣による歌声はもちろん、視覚的にも人々を大変満足させる作品です。 [past_image 5]  舞台装置は奥行きが深く、紫禁城の庭がゴージャスに、立体的に描かれ、輝く衣装も重厚。場面毎に新鮮さを与える工夫がこらされています。  アーティスト達が口を揃えて言う、「私たちは、先代の世界的に活躍した歌い手の功績をこの上なく尊敬し、継承する責任がある」との言葉の通り、このオペラハウス専属アーティストの誰が歌っても、安定した歌唱で期待を上回ります。シリアスな場面にも笑いを注ぎ、私たちの楽しみを膨らませるピン・パン・ポンの存在は、まるで影の主役。芳醇なブルガリアン・ヴォイスに期待が高まるトゥーランドットです。 [past_image 4] ------------------------------------------- ブルガリア国立歌劇場 2015年日本公演 プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」10月10日(土) 15:00 東京文化会館 ボロディン:歌劇「イーゴリ公」10月11日(日) 15:00 東京文化会館
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