2015/6/15
ハーゲン・クァルテット(ルーカス・ハーゲン&ライナー・シュミット)インタビュー
取材・文 青澤 隆明
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モーツァルトの故郷ザルツブルクで結成されたハーゲン・クァルテットは、結成以来35年の歳月を重ねてなお、変化と冒険を怖れずにさらなる挑戦を続けている。ハーゲン一家の兄弟姉妹の4人で結成されたのが始まりだが、数年後から第2ヴァイオリンがライナー・シュミットに交替して現在までの長い旅を続けている。長兄で第1ヴァイオリンのルーカス・ハーゲンと、ライナー・シュミットに話を聞いたのは、前回の来日にあたる昨夏の終わり。饒舌とは言えないふたりだが、それぞれに慎重ながら実感をもって言葉を継いだ。
2013年にベートーヴェンの四重奏曲チクルスを完遂したハーゲン・クァルテットは、来るシーズンにはちょうどモーツァルトに立ち返って後期10曲のチクルスを展開するところだ。そうしたなか、故郷ザルツブルクと友好都市の関係を育んできた川崎でのコンサートは、ハイドン後期のハ長調op.54-2に始まり、モーツァルトの「プロシア王第1番」、ベートーヴェンの第14番という2人の最晩年の作品を組み合わせた、ミューザ川崎の聴衆のための特別なプログラムを演奏する。
私たちは小さい頃からモーツァルトといっしょに育ってきたようなものです
ハーゲン・クァルテットのメンバーはみなモーツァルテウム音楽院の出身で、同地の音楽伝統を脈々と引き継いできたわけですが、同じ故郷の偉大な先達のことを、いまどんなふうに感じているのでしょう?
ルーカス・ハーゲン「そう。モーツァルトは私と同じザルツブルクの出身です。だからといって、必ずしもそのことを考える必要はないように思います。どちらにしても私たちはモーツァルトに関わっていくし、またそうしてきたわけですからね。重要なのは音楽そのものです。ザルツブルクで生きてきた者にとってはモーツァルトはいつもそこにあるし、楽器を弾いているかぎりつねに関わっていかなくてはならない存在。ですから、その両方の意味で、私たちは小さい頃からモーツァルトといっしょに育ってきたようなものです」。
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たとえば、モーツァルトの作品を演奏しているときなど、作曲家の存在は非常に身近に感じられますか?
ハーゲン「モーツァルトの音楽を演奏しているわけですから、やはりそこにいます。どこか他のところにいるというふうに感じたことはありません」。
ライナー・シュミット「4つの段階のコミュニケーションがあります。第1段階は、作曲家がある作品を作曲する。頭で考え、心で考えて、それを他の人がわかるかたちで作曲するのですから、そこでもう作曲家がコミュニケーションをとっているわけです。第2段階は、私たちひとりひとりがなにかを練習しようとしたとき。自分たちが音楽を伝えるということになるのですから。次は、四重奏という形態でいっしょに演奏する場合。第1段階、第2段階でどういうことが起きてきたかをそれぞれが語り合い、理解し合って演奏しないといけません。そして、第4段階が聴衆を前にしてのコミュニケーションです。舞台の上では、自分たちどうしでも語り合わなくてはいけないし、聴衆とも語り合わなくてはならない。この段階ではもうそこには作曲家はいないと私は思います」。
ハーゲン・クァルテットは、モーツァルトはもちろん、ハイドンやべートーヴェンの作品群もまた大きな柱として活動されてきましたが、長年演奏を重ねることで、どのように理解や表現が深まってきたという実感をおもちですか?
ハーゲン「練習するたびに見解は変わります。作品に対する自分たちの理解も、大きく変わってくるのです。たとえば、1年半ほど前にベートーヴェン・チクルスに取り組みましたが、その前後でモーツァルトに取り組むとまた違ってくる。それだけでも変化があります。若い頃から現在にいたるまでの私たちの演奏の変化はかなり大きいなものですが、いまでもそうした変化は続いています。いまの私たちが演奏するうえで、なにがいちばん重要かということをつねに探っていますから」。
シュミット「このことは今後もずっと変わらないでしょう。つねに私たちは探り続けています」。
対等な立場でお互いの意見をリスペクトすることで、私たちは成り立っています。
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4声のバランスや関係がつねに変化しているのがハーゲン・クァルテット独特の魅力だと思いますが、4人の関係を新鮮で刺激的なものに保つのに、なにか秘訣のようなものはあるのですか?
シュミット「秘訣というようなことではなく、それが私たちの仕事なのです。まさにそうあるために、いつも努力しているわけです」。
ハーゲン「作品の捉えかたもひとりひとり違うし、各自が変化をもたらしたいと思って、つねに活動しています。そうして、私たちそれぞれが願っているものを、私たち4人の仕事として皆さんにご理解いただけるのでしたら、それはいちばんうれしいことです」。
しかし、弦楽四重奏という突き詰めた形態で、長年にわたって挑戦的な姿勢を保つのはそうそうできることではないでしょう?
シュミット「たくさん笑うことですね。ユーモアの感覚が近いのでしょう、私たちは練習でもほんとうによく笑いますよ。それぞれの意見は違うこともありますが、そこでお互いをリスペクトすることが大切です。ある意見をまったく無視したり、自分の我を通そうとすると、この関係は成り立たなくなりますから」。
ハーゲン「すべてやってみるわけです。では、やってみましょうかと。そのなかでもっともよい解決策を見出していく。4人の関係に序列といったものはまったくありません。対等な立場でお互いの意見をリスペクトすることで、私たちは成り立っているのです」。
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ハイドン、モーツァルト、そしてべートーヴェン。ハーゲン・クァルテットの4人がさまざまな季節のなかで愛してきた珠玉の名曲たちが、生きたコミュニケーションのただなかにいま、新しく響く。
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音楽界の頂点に君臨する王者
楽都ザルツブルクが生んだ世界最高峰のアンサンブル
ハーゲン・クァルテット
9月26日(土) 14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
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