2015/5/21

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プレトニョフ、演奏活動再開。ルツェルンでの公演レポート

 体調不良のため、予定されていた2015年4月の来日が中止になり、ご心配をおかけしておりましたミハイル・プレトニョフですが、無事に回復し、ヨーロッパでの活動を再開いたしました。 [past_image 1]  スイスのルツェルンで開催されているロシア音楽祭『魔の湖』の目玉公演の1つであるプレトニョフのピアノリサイタルに足を運んだ。この音楽祭は今年で4回目の若いフェスティバルだが、ロシアの富裕層を集めてルツェルンをゴージャスな街に仕立てあげることに成功している。  芸術監督のビショフ・ウルマン氏はロシア人有名アーティストとの交流が多く、ルツェルンという街も、郊外にあるラフマニノフの別荘を代表に、ロシアに関係が深い過去を持つ街なので、その絆を現代にも再現させたいと、この音楽祭を企画したという。今年のテーマは、残念ながら直前に他界されたバレリーナ、マイヤ・プリセツカヤの90歳記念であった。  音楽祭のオープニングはカルミナ弦楽四重奏団とピアノのラベック姉妹が飾った他、サンクト・ペテルブルグ弦楽四重奏団、ボリス・ベレゾフスキーのリサイタルと盛り上がってきた4日目の5月16日昼にプレトニョフのリサイタルが組まれていた。  天気に恵まれた土曜日のルツェルン湖畔は早くもバカンスの様相を呈しており、「なるべく演奏家の近くで彼らの芸術を堪能して欲しい」という意向から選ばれた会場のシヴァイツァーホーフホテルはロビーもバーも大勢の客で、ウェイター達も余裕なく動き回っている。そのストレスフルな空気から解放される間もなくホールに通されたせいか、プレトニョフが登場してすぐ、相変わらずの無愛想さでチャイコフスキーのピアノ・ソナタト長調を弾き始めても、なかなか彼の音楽が伝わりにくかった。「彼の心が届かない」、「彼のピアノが歌わない」、そんな焦りにも近い想いで彼の奏でる音を追いかけるうち、突然彼の音楽が広がりだした。それは弱音の響きに聴き入った時に訪れた、彼の音楽と波長がピッタリと合った瞬間だった。1音の背景に多彩な色を帯びている弱音に導かれて、彼の音楽の世界への入り口が見つかった。低音域でテーマが繰り返される度にドラマティックになっていく。彼の奏でる音階の自然な美しさ、儚さに酔っているうちに、主題が戻って来たが、その時はもう完全にプレトニョフの懐の中にいた。やりきれないほどの哀愁を漂わせる第二楽章、生命感に溢れる第三楽章、そして華々しく第四楽章が終わると、聴衆は惜しみない拍手を送った。  休憩の後は、前述の音楽祭の芸術監督に、慣習版ではなくオリジナル版だということをアナウンスさせて、同じくチャイコフスキーの『子供のためのアルバム』が始まった。そこでは子供の世界を繊細に展開し、隣に座っていた10歳前後の女の子達をも喜ばしていた。アンコールでは一番情熱を解放させ、終演後はリズミカルにたたかれる拍手とブラボーと床を踏みならす音の歓迎を受け、流石のプレトニョフも嬉しそうに左手を胸に当てて深々と何度もおじぎをした。  大きな花束を渡した貴婦人、涙ぐんですらいた聴衆、満足そうに頷くファンなど、それぞれが幸せをもらって、春の陽光の中を帰って行った。   中 東生(音楽ジャーナリスト) 写真:Angabe ------------------------------------- 世界屈指のオーケストラが奏でるロシア音楽名曲集! プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団(RNO) 2015年07月07日(火) 19時開演 文京シビックホール <プログラム> グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23(ピアノ:牛田智大) ラフマニノフ:交響曲 第2番 ホ短調 Op.27 公演の詳細はこちら
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