2015/3/2
【大成功】アンスネス&マーラー・チェンバー パリ公演レポート
パリ シャンゼリゼ劇場 /2015年2月17日・19日
レイフ・オヴェ・アンスネス(指揮・ピアノ)&マーラー・チェンバー・オーケストラ
<ベートーヴェン ピアノコンチェルト全曲コンサート>
第2・3・4番 (17日)、 第1・5番 (19日)
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「ベートーヴェンへの旅」と題する二日に亘るコンサートが、パリ、シャンゼリゼ劇場で行われた。ノルウェー人ピアニストのレイフ・オヴェ・アンスネスの弾き振りで、マーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)が演奏した。スキーヴァカンス中にも拘わらず、2月17日・19日両日とも、ほぼ満席の大盛況で、開演40分前にはすでに、多くの聴衆が入口付近に詰め掛け、今や遅しとホールの開場を待っていた。人気のアンスネスが目当ての他にも、この創立18年目のフレッシュなマーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)のファンもいるのだろう、普段のシャンゼリゼ劇場よりも若年層が多く見られる。
※マーラー・チェンバー・オーケストラ以下MCO
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二晩で、ベートーヴェンのコンチェルトを全曲しかも自ら指揮をしながら弾き、コンサートとして成功させるということ自体注目に値するが、ここで言いたいのはそれだけではない。
まず、なんと多彩な音色のパレットを持ったピアニストだろうかということ。5曲のコンチェルト全てにおいて主に第二楽章のピアノ、ピアニッシモの静の場面で、それが顕著になる。第1番の二楽章はゆったりとした豊潤な響きに引き込まれるし、第2番の二楽章の終わりはその静謐で厳粛な静けさ、第3番の二楽章のピアノのソロで始まる部分は、あたかも彼が一人で部屋で弾いているのをこっそり聴いているような親密さに心打たれる。第4番はピアノと弦楽器群との謎かけのような対話と、第5番は第一楽章の高音域でのオルゴールの音色等々…
また、MCOをまるで自らの呼吸のように生き生きと歌わせ、加速度の付いた急激なクレッシェンド、フォルテ、スビトピアノ、とメリハリの効いたディナミックを聴かせる。ほんの少し間を取ったり、思いがけないアッチェレランドをしたりと、時間の流れも伸縮自在に操るアンスネス。けれど、決して奇を衒うことがなく自然な音楽である。そして彼とぴったり一体化しているオーケストラ。MCOとアンスネスとの間にある強い信頼関係が窺われた。
目を閉じて聴いていると、曲想や調性が変わる度に、物語のページがめくれるように音楽の場面が変わる。時折愁いを湛えた世界に誘うかと思うと、突然いたずらっ子のようにもなる。色彩の豊かさ、ディナミクや速度のコントラストも、全て私達にさまざまな「物語を聞かせてくれる」為の道具なのだ。
そして、スコアの読み込み方が極めて緻密だ。例えばオーケストラパートだが、筆者も普段聴き慣れている曲のはずなのに、アンスネスの指揮では時折り、弦楽器群の内声に隠れている対位法的メロディが引き出されて、初めてそこにそんなものがあったことに気付かされるのだった。また、フルートやバスーン等にほんの少し音量を加え意味を持たせることによって、管楽器群に光が当たり、あらためてその姿が浮き彫りになる。ナチュラル・ホルン、ナチュラル・トランペット等を使用していることと、編成を大きくせず2管編成の室内オーケストラに留めたのは、ベートーヴェンの時代のエスプリに近づけたいという彼の考えの表れだろう。
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二日目のアンコールは、ベートーヴェンのバガテルに加え、ベートーヴェンのダンス・アルマンド(作曲家自身の編曲によるオーケストラ曲)で、クラリネット奏者が太鼓を叩いてパーカッション群に加勢し、なんとアンスネス自身も途中から指揮台を降りて、タンバリンを演奏したのがご愛嬌だった。
演奏会後、アンスネスに「これからは例えば、ベートーヴェンの交響曲などを指揮したいと思われますか?」と聞いてみると、「いやいや、それはありません。コンチェルトで弾き振りをするのがいいのです」と、あくまでもピアニストであることを大事に思っている風であった。
けれどなにより貴重なことに思えたのは、アンスネスにとって一番大切なのは、聴き手に自分自身を押し付けることではなく「作品・作曲家に忠実であること」。音楽に対して真摯な姿勢の、決して派手ではない北欧のピアニストに、シャンゼリゼ劇場は、いつまでも、いつまでも拍手が鳴りやまなかった。
鈴木理香(作曲家・パリ在住)
Photo by Geoffroy Schied
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世界50都市を巡る<ベートーヴェンへの旅> いよいよクライマックス!
レイフ・オヴェ・アンスネス (指揮&ピアノ) with
マーラー・チェンバー・オーケストラ
2015年05月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
2015年05月17日(日) 14時開演 東京オペラシティ コンサートホール
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